──消費税の再増税延期をどう見ますか。
「よかったと思っている。今の消費税のままでは景気に対して悪影響があるためだ。特に低所得の人が苦しい。住宅や自動車といった耐久消費財の消費も減退させる。これは増税前の駆け込み需要の反動による一時的なものではない。お金を借りてモノを買うとき、借り入れには限度額があるが、消費税率が上がったからといって限度額は増えない。消費税が上がった分、実質的に購買力が減ってしまう。これは恒久的な影響だ」
「再増税まで時間的余裕ができたので、導入が予定されているマイナンバー(社会保障と税の共通番号)も活用し、低所得者向けの対策をしっかり実行してほしい。住宅や車にかける消費税はやめるべきだ。その分は固定資産税の上物部分の税率を上げたり、車に保有税をかけたりすることで賄うべきだ」
──社会保障の財源としては本来、何が適切なのでしょうか。
「高所得者に対する課税強化のほか、(株式などの)譲渡益課税、相続税など直接税を拡充していくことも大切だ。所得税を減らして消費税を上げていく対応では、格差の拡大につながってしまう。ただ社会保障は機能別に財源を考えていく必要がある」
「社会保障は大きく2種類に分けることができる。一つは生活保護など所得再配分の仕組み。ここは税金が財源となる。もう一つは健康保険や年金などの社会保険。こちらは所得再分配の仕組みではなく、保険であることを明確にして、主には社会保険料で賄うようにすべきだ」
──社会保障の各制度はどのように改革すればよいでしょうか。
「年金制度については、政府が2004年に実施した改革の理念は正しい。このときの改革で保険料の上限を決め、その財源の範囲で年金を給付する形にした。それまでは給付を先に決め、それに必要な保険料を徴収していたから、若い世代にどんどん重い負担となっていた。今の制度は世代間の負担の不平等をなくしていける」
「ただし一定の財源内に収まるように今よりも年金給付水準を下げていくマクロ経済スライドは、デフレ経済下でも厳密に実施しなければならない。年金が下がるのがいやな人は、できる限り長く働いて年金を通常よりも遅くもらい始めるようにしたい。そうすれば年金額は増える仕組みになっている」
「今の制度では高齢者がもらえる年金原資は一定範囲で決まっているのだから、それを早くから少なめの金額でもらうか、遅くからもらって厚くするか、個人の選択に任せればよい」
──年金制度は大きく形を変えるべきだとの意見もあります。
「(全国民に共通する公的年金である)国民(基礎)年金については、保険料の未納問題が深刻だ。このために老後、無年金や低年金になり、生活保護に頼る人を増やしている」
「国民年金保険料は廃止して、給付に必要な財源をすべて税金で賄う方式にしてはどうだろうか。厚生年金に加入している人も厚生年金保険料の中に含まれる国民年金分の保険料を引き下げることができて負担減になる」
「国民年金は全国民に一律に支払うのだから、保険で実施するより、税を財源とする考えもあり得る。きちんと支給されるようになれば、無年金問題なども解決し、生活保護を受ける高齢者を減らすことができる。新たな税財源が必要にはなるが、所得税の強化や低所得者対策を講じたうえでの消費税増税で集めた税金を充てればよい。年金保険料負担は減るので、増税を受け入れる余地も出てくるだろう」
──その他の制度についてはどうでしょうか。
「医療や介護についても本質的には年金制度と同じように、若い世代の負担がどんどん増えることがないような仕組みにしていくべきだ。また日本は(どんな症状でもまず診てくれるかかりつけ医などの)プライマリーケアが弱い。ここを充実させることは医療の効率化に役立ち、患者にとってもありがたい」
「生活保護については、いったん受給者になっても、またそこから出ていきやすいような仕組みづくりが必要だ。保育についても、規制緩和で保育士や保育所が増えていくようにしないといけない」
はった・たつお 1966年国際基督教大卒、ジョンズ・ホプキンス大教授など歴任。アジア成長研究所所長。71歳。
この前提の根拠は、「今こそ財政拡大が景気拡大に結びつく」(エコノミスト誌・2003年4月1日)で明らかにしました。
なお、2011年の「社会保障改革に関する集中検討会議(第九回)」での「社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書」に示された私の発表意見は、上記のエコノミスト論文に基づいています。