2018/09/06

「外国人単純労働者を受け入れるべき業界、受け入れるべきでない業界」ダイヤモンド・オンライン

ダイヤモンド・オンラインに「外国人単純労働者を受け入れるべき業界、受け入れるべきでない業界」を寄稿致しました。

次のリンクからご覧いただけます。
https://diamond.jp/articles/-/178644

本文を以下に掲載します。図表等を含めた完全版は、上記ダイヤモンド・オンラインのウェブサイトでご覧ください。


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 政府は骨太の方針で、外国人単純労働者の受け入れ拡大の方針を発表した。
 これまでも法務省は、外国人について、原則として高度人材(大卒相当者)は柔軟に受け入れてきた。しかし単純労働者(大卒相当者以外)に関しては、格差拡大防止の観点から、原則受け入れないという方針をとってきた。今回、政府は単純労働者受け入れに関する方針を大きく変更したのである。
 確かに、外国人単純労働者の受け入れ拡大は必要である。ただしそれは、無原則に行うのではなく、格差を拡大せずに生産性を向上できる分野に絞って行われるべきだ。
 外国人単純労働者の受け入れがもたらすメリットは明らかだ。彼らは安い財貨・サービスを提供してくれる。例えば、現在日本の大都市では、数多くの外国人学生がコンビニで働いてくれているお陰で、賃金が抑えられ、狭い地域で数多くのコンビニが採算をとることに成功している。これが、住民に安いサービスと便利さをもたらしている。
 一方で、外国人単純労働者の増大は、ただでさえ低い日本人労働者の賃金をさらに引き下げることが多い。例えばコンビニで外国人学生アルバイトが増えれば、その分コンビニレジの賃金がさらに下がってしまう。このためレジをやっていた日本人がコンビニを辞め、ファミレスのウェイトレスに移ることにより、ファミレスの賃金も引き下げられるといった連鎖が生じ、格差は拡大する。外国人学生アルバイト以外にも単純労働に外国人が流入すると,格差はさらに拡大する。
 アメリカでは、多くの単純労働者を受け入れてきたことが、格差を拡大し、低所得者の労働意欲を削いできた。民主党政権は、不法労働者を雇った企業を罰すれば単純労働者の流入を大幅に減少させることができたはずなのだが、政治的にそれをしなかった。
 その結果、ブルーカラー労働者による外国労働者敵視が広まり、移民政策以外のことにまで排外主義を奉じるトランプ大統領が生まれた。イギリスも、単純労働者の受入れが多くの労働者の不満を生み、Brexit(ブレグジット)という暗澹たる結果をもたらした。
 日本政府は、今回従来の方針を変えて、何の基準もなく受け入れ5分野を選んだ。日本も、外国人受け入れに関して強い政治力を持った分野でズルズルと単純労働者を受け入れつつあるようだ。先輩諸国の失敗を繰り返えそうとしているように見える。

 しかし、単純労働者の受け入れによって発生する格差拡大はやむを得ないという説がいくつかある。それは本当だろうか。
 第1は、このまま人口減少を座視すれば、日本全体の1人当たり生産性が下がってしまうからだという説である。しかし、人口減少が生産性を下げるわけではない。OECD加盟国の過去40年間のデータでは、人口成長率が実質の経済成長率に全く影響を与えていないことがわかっている(八田達夫「地方創生策を問う」日経経済教室2015年2月6日)。人口成長率は高いものの経済成長率が低い国も、その反対の国もある。日本の生産性向上のために格差拡大を受け入れる必要はまったくない。
 第2は、人手不足がこのまま続き、衰退産業がみすみす消えていくのを見るに忍びないというものである。しかし、そもそも衰退する産業から資源がシフトするからこそ新産業が成長できるのだ。外国人単純労働者の受け入れによって衰退産業を守ると、新分野の成長が阻害されてしまう。
 たとえば、農業のような衰退産業に外国人単純労働者を受け入れるべきだという政治的な主張は極めて強い。この結果、技能実習生という形で受け入れ、低い生産性の農業経営が温存されるという結果を生んだ。
 農業を再生させるには、様々な経営形態を競争にさらすことこそ有効だ。それによって高い賃金を支払い、都会の若者や農業大学出身の外国人を吸引できる農業事業家のみが存続できるようにすれば、格差の拡大なしに生産性を上げることができる。政治圧力に妥協して、技能実習生制度を労働供給源として存続させれば、格差を拡大するだけでなく、国全体の成長を阻害してしまう。
 第3は、このまま人手不足が深刻化すれば、特定の業種が成り立たなくなる、という説である。例えば、高齢化時代に向けて介護人材の需要が増え続けるのだから、外国人介護人材の受け入れは不可避だと言われる。
 しかし介護の賃金は、人手不足にもかかわらず公的に抑制されている。これでは、人手不足が解消しないのは当たり前だ。図1が示すように、介護の年間給与は320万円であり、これより低い給与の人は、給与所得者の30%しかいない。これを中位数水準まで引き上げれば、十分な介護人材の供給が得られよう。介護士の資格を持ちながら介護士より労働負荷が低い他業種に就いている人々が、大量に介護職に流入するからだ。

 介護士の給与引き上げは、320万円前後の他の業種の給与も一斉に上げる。高齢化の進行による介護人材への需要の急増は、日本における所得格差縮小の千載一遇の機会なのだ。その上、介護士給与の引き上げは、ロボットなどの技術の活用と進歩を促す。これは、世界に輸出可能な高齢者向けのロボット産業を生み出す。
 介護賃金の引き上げは、財政の破綻を招くという人もいる。しかしそれは、他の低賃金の民間業種全体の賃金も引き上げるから、所得税や社会保険料の納付額が増える。高齢者の労働市場に参画も促すので、彼らの生活保護依存度を引き下げる。
 さらに、混合介護の導入によって、介護人材の実質的な所得向上を、財政措置なくして可能にすることもできる。すなわち、優秀な介護士に指名料を払えるような仕組みにしたり、介護保険で認められている以上の介護も、追加料金を払って頼めるようになったりするのである。
 それに対して、介護分野の賃金を低く固定したまま外国人労働者を受け入れると、低賃金労働者一般の賃金が上がらないから、格差が拡大するだけでなく、必要な技術進歩も、混合介護のような新しい工夫も起きようがない。

 一方、受け入れても格差が拡大しない分野では、外国人単純労働者を受け入れるべきである。
 まず比較的高い給与を得る外国人労働者は、日本語の十分な能力を前提とした上で、学歴の如何を問わず無条件で受け入れるべきであろう。(比較的高い給与とは、例えば、それ以上の給与を得ている給与所得者数は全体の3分の1未満しかいないような水準の給与とすることが出来よう。)この原則の設定は、従来のものと比較すると大改革になる。
 つぎに、それほど高い給与でなくても、日本人と競合しない職種で,日本人の単純労働者の賃金引き下げをもたらさない分野では、長期的な格差拡大には繋がらないから、政策的に必要ならば、受け入れるべきである。
 第一に、一時的な人手不足が生じている職種では、その期間外国人労働者を受け入れることは、格差拡大には繋がらない。たとえば、建築労働者の需要は、オリンピック前の現在、急増しており、図1が示すように、建設労働者の賃金はすでに中位数の水準の周辺にある。それにもかかわらず、需要増が一時的だと判っているために、建設労働者になるための訓練を受ける日本人が少ない。こうした状況では、建設労働者の賃金の極端な高騰を抑える程度の外国人を受け入れは、必要な期間を限って行うべきである。
 第二に、外国語を必要とするサービス分野での外国人労働者を受け入れても日本人賃金への影響は少ない。例えば、近年における外国人旅行客の増加は、日本のレストランや店舗やホテルなどで、中国語・韓国語などの言語に対応するためのインバウンド人材の大幅な増員を必要としている。
 第三は、美容、日本料理、アパレルなどクールジャパン対応サービスに関する労働である。現在は、留学生が日本の美容学校を卒業し美容師資格を取っても、日本で訓練を受けることなく直ちに帰国しなければならない。せっかく、アジア中の憧れである日本の美容技術に触れても、技術を習得できずに帰国させていくことになる。美容学校を卒業した人が、例えば卒業後5年間の訓練期間を経て、日本の美容の技術を持ち帰ることを可能にすることは必要であろう。
 これは、日本の化粧品や美容器具だけでなく美容サービスそのものの輸出に繋がり、長期的に見れば日本の美容師の賃金上昇に貢献する。留学生が帰国後に日本の美容術が海外に普及させると、日本人の優れた美容師が海外の美容院で働く機会が大きく広がるからだ。このような、従来の外国人政策では単純労働と扱われてきた分野でも、外国人労働者を受け入れるべきだ。
 日本料理やアパレル等のクールジャパンサービスについても同様のことが言える。

 大企業には賃金の引き上げを要求する一方で、基準なく単純労働者を受け入れようという現政権の政策は、自己矛盾している。日本が現在直面している人手不足は、単純労働者の賃金引き上げをもたらし格差を是正する千載一遇の機会を与えてくれている。無節操な外国人単純労働者受け入れは、この機会を無にしてしまう。
 受け入れ分野の選別に当たっては、上記のように格差拡大をもたらさないことを前提とする基準をつくり、政治の圧力を極力排して、透明なプロセスで行うべきだ。そうすることによって、格差縮小の流れを加速し、先輩諸国で起きた低所得の労働者による排外的思想運動の発生を根本から防止することが出来よう。

2018/09/03

『地方創生のための構造改革』(八田達夫・公益財団法人NIRA総合研究開発機構 編著)

地方創生のための構造改革』(八田達夫・公益財団法人NIRA総合研究開発機構 編著)が時事通信出版局から、9月12日に発売されます。ぜひご覧ください。


内容紹介
持続的な地方創生を実現するためには、「参入規制改革」と「地方分権制度」の抜本的な改革とが不可欠!

地方創生は、現在の日本にとって大きな政策課題であり、そのためには構造改革を進める必要があります。構造改革の期待される効果は、地方が比較優位を持つ産業の成長を限定している制度的な障害を取り除くことです。

地方が明確に比較優位を有し、持続的成長が可能な分野は、1. 農業・水産業などの第1次産業、2. 観光産業、および、3. 高齢者用サービス業で、このうち1と2は、既得権を守るための参入規制が成長を阻害しています。3は、現在の地方分権制度が成長を阻害しています。したがって、地方創生のために有効な構造改革は、「規制改革」と「地方分権制度に関する行政改革」とに分類できます。本書はそれぞれの主要な論点を明らかにし、これからの構造改革の拡大の方向を示します。

目次
第I部 規制改革

  • 第1章 農業政策
  • 第2章 漁業政策
  • 第3章 観光政策

第II部 行政改革

  • 第4章 高齢者サービス業
  • 第5章 少子化対策
  • 第6章 地方財政制度改革