(左) WFER 2018 in Mexicoにて、英・米・墨のエネルギー規制委員会委員長とのパネルディスカッション。(右) 近著。いずれも2018年。

国際環境経済研究所の責任を問う


201341
国際環境経済研究所の責任を問う
八田達夫
 国際環境経済研究所(澤昭裕所長)のウェブサイトは、拙著に対する以下の匿名書評を、掲載した。

電力改革研究会「電力システム改革論を斬る!理論経済学者が語る電力システム改革八田達夫『電力システム改革をどう進めるか』」

この書評は、原文の肝心の箇所を削除して引用するという、書評の基本ルールを破る形で批判を試みている。国際環境経済研究所は、この書評の不当性を認め削除することを要求する。

電力の発電費用は、「燃料費用」と、人件費や資財調達費などの「燃料以外の発電費用」とに分割することができよう。自由化が大きな費用削減効果を及ぼすのは、「燃料以外の発電費用」の部分である。したがって、電力の自由化によって「一般物価」の上昇率を下回る「燃料以外の発電費用」の上昇率が観察されれば、自由化によって発電費用が低下した可能性が高いといえよう。
しかし、仮に
 
 ①自由化後の「一般物価」の上昇率より「電力料金」の上昇率の方が低い 

ことが観察されたとしても、それだけで自由化が費用削減効果を持ったとは言えない。その期間中の燃料費の上昇率の方が「一般物価」の上昇率より低ければ、「燃料以外の費用」の上昇率は「一般物価」の上昇率を超えているかもしれないからだ。したがって、①が観察される場合に、さらに

 ②その期間中に燃料費自体の上昇率が「一般物価」の上昇率を上回る

ことが観察されれば、自由化後の「燃料以外の発電費用」の上昇率が「一般物価」の上昇率を下回ることを示したことになり、自由化の費用削減効果を強く示唆することになる。
 
 このことを考慮して、拙著『電力システム改革をどう進めるか』(日経、2012年)の29ページでは次のように記している。
 
「たとえばドイツでは電力改革自由化が行われた1998年から2010年の間に電源の約4割を占める石炭の価格は5割以上上がり、消費者物価は2割以上上がった。しかし税引き後の家庭用電気料金は1割弱しか上がらなかった。この原因の大きな部分は自由化によると考えられる。」

 この引用箇所では、自由化後の「燃料以外の発電費用」の上昇率が「消費者物価」の上昇率より低かったことを2段階で示している。
 まず、①期間中に、消費者物価は2割以上上がったが、税引き後の家庭用電気料金は1割弱しか上がらなかった、という事を示している。
 次に、②電源の大きな割合を占める石炭の価格が5割以上上がったことを具体的に例示した。この期間の石油やガスの値上がりはよく知られている通り(参考のために記せば、実はこの間重油の1トンあたりの価格はドイツで372%上がり、天然ガスは50%上がっている[1]。)だから、これはこの期間における燃料費の上昇率が2割以上であることがまず確実であることを示している。
 以上の①②を示すことによって、上の引用箇所は、自由化後の「燃料以外の発電費用」上昇率は、消費者物価の上昇率未満であったことを明らかにしている。
 
 この引用箇所に対して、電力改革研究会による書評は次のように批判している。

「自由化が電気料金を引き下げる効果があることのエビデンスとして、ドイツにおいて『1998年から2010年の間に電源の約4割を占める石炭の価格は5割以上上がったが、税引き後の家庭用電気料金は1割弱しか上がらなかった』ことを挙げ、1998年に始まった電力自由化がこの大きな原因と考えられる、と指摘している(29ページ)。

 しかし、発電燃料である石炭のコストは、電力供給のコストの一部に過ぎないから、石炭価格の上昇幅に比較して、家庭用電気料金の上昇幅が小さいのは当然である。日本の数字の相場観にあてはめてみても、石炭火力の燃料費は34/kWhであり、石炭が5割高くなれば、1.52/kWhのコストアップとなる一方、家庭用の電気料金の平均単価は20/kWh強なので、丁度1割弱に当たる。この程度の簡単な計算をするだけでも、自由化の効果とする主張の説得力の弱さは分かる。」

 電力改革研究会は、石炭の燃料費の上昇率が5割であり、電力料金の現実の上昇率が1割であることは、人件費や資材調達費を含む「石炭の燃料費以外の発電費用」の上昇率が0であることを意味していると主張しているように見える。
「石炭の燃料費以外の発電費用」の上昇率が0であったことは、自由化が人件費やその他のコストを下げなかったことを意味するように一見見える。しかし国内の物価上昇率を示す消費者物価指数が2割以上上がる中で、「燃料以外の発電費用」の名目値の上昇率が0に止まったということは、「燃料以外の発電費用」の実質価値が下がったことを意味する。これは、自由化の効果である可能性が極めて高い。

 電力改革研究会は、上の引用箇所で「消費者物価が2割以上上がった」という肝心の部分を削除して引用している。それによって、もともとの立論の道筋を不明にしたうえで、批判のための理論構築をしようとしたのだが、批判のために用いた議論も自ら墓穴を掘った結果になっている。元通りの引用をしていれば、電力の自由化後に「燃料以外の発電費用」が実質的に低下したことは歴然としている。
電力改革研究会によるこの書評は、建設的な議論でなく、理屈なき抵抗の議論である。しかも匿名である。この研究会の主な関心が、その名前とは正反対に、日本の電力システムの供給安定性をどう高めどのように費用を下げるかにあるのではなく、自由化をいかに阻止し既得権を守るかにあることを、この書評は垣間見させてくれた。この書評の明らかに電事連的な性格は、福島事故の後でも、電力会社とその取り巻きの本質は全く変わっていないことを示しているように見える。
今回の書評の目的が、自由化論者の信用を社会的におとしめることを意図したものだったとしても、論争において相手の立論の引用を曲げて行い、それをあたかも論争相手が言ったがごとく批判するということは、許されるべきことではない。国際経済環境研究所はこの書評を即時削除すべきである。




[1] ENERGY BALANCE OF OECD COUNTRIES (1998,2011EDITION)
ENERGY PRICES & TAXES (4Q2006, 4Q2012 EDITION)