アジア成長研究所の雑誌『東アジアへの視点』に、保科寛樹氏との共著論文「人口成長率の低下は,生産性を上昇させる傾向がある」を執筆しました。
要旨
「人口成長率の低下は生産性(1人当たりGDP)の成長率を下げる」という因果関係は,広く信じられており,地方への人口分散政策や外国人単純労働者受け入れ政策の与件とされていることが多い。この命題は,労働力投入の増大による集積の経済がもたらす生産性増大効果が強く,その効果が,労働の限界生産力逓減の法則による生産性低減の効果を超えることを,暗黙の内に前提としている。本稿では,この因果関係が実証的に成り立っていないことを明らかにする。具体的には,OECD加盟国,およびOECDにASEAN加盟国・中国・インドを加えた各国の,1961~2019年間のデータを分析対象として,次を示す。(1)この全期間において,人口成長率と1人当たりGDP成長率との間に,統計的に有意な正の相関関係は成り立たない。この間を10年ごと・20年ごとなどに分割したどの期間についても,同様である。(2)本稿で分析した大多数のサンプルグループにおいて,統計的には有意でないものの逆の関係が回帰分析では観察される。(3)特定の期間と国グループの組み合わせでは,負の関係が統計的に有意に成り立つ。これらの事実は,一般に広く信じられているほどには集積の利益が強くないことを実証的に示している。「人口成長率の低下が生産性の成長率を下げる」という因果関係は,実証的に検証されていないという事実は,広く政策担当者に認識されるべきであろう。
八田達夫・保科寛樹(2020)「人口成長率の低下は,生産性を上昇させる傾向がある」,『東アジアへの視点』,第31巻2号,2020年12月,http://shiten.agi.or.jp/2020/12/1559/
0 件のコメント:
コメントを投稿