2025/03/27

AGIワーキングペーパー・シリーズ「財政補助なしの『年収 130 万円の壁』対策」

アジア成長研究所(AGI)のワーキングペーパー・シリーズとして、「財政補助なしの『年収 130 万円の壁』対策」を発行しました。(2025年3月)

全文は下記からご覧ください
https://www.agi.or.jp/publications/workingpaper/2025/WP2025-03.html
【AGIリポジトリhttps://agi.repo.nii.ac.jp/records/2000185

要約:
給与所得者の妻の年収が 130 万円を超えると社会保険料を妻自身で納めなければならなくなるために、世帯の手取額が急減することは、「130 万円の壁」と呼 ばれている。本稿は、政府による財政支援なしにこの壁を取り除くことが可能であることを示す。具体的には、給与所得者の妻の年収が 130 万円を超えた場合、 夫の雇用先に「卒扶養手当」の支給を義務付けることによって、雇用先の利益も、この世帯の手取りも、共に増加させ続けられることを示す。さらに、そのた めに必要な、日本年金機構と夫の雇用先との間の財務調整を明らかにし、それを可能にするために政府が整備すべき制度および税制を提案する。

2025/03/26

日本における貧困対策としての社会保障と税制

日本における貧困対策としての社会保障と税制
と題する論文を書きました。これは、AGI基本プロジェクト報告書になる予定の原稿です。この論文の主旨は次の通りです。

「可処分所得(すなわち手取り所得)で計測した”相対的貧困率”と呼ばれる指標では、日本は、OECD加盟先進国の中で3番目に不平等な国である。日本より不平等な国は、アメリカと、パレスチナ難民が多く住むイスラエルのみである。実は、日本のこの高貧困率の原因は、市場所得(社会保障給付を与えたり、税や社会保険料を差し引く前の所得)の不平等にあるのではない。原因は、低所得者が直面している税負担や社会保障負担の高さと給付の低さにある。 本稿は、そのことを示した上で、日本の低所得者の生活向上のためには、医療保険と基礎年金の税方式化、②給付付き税額控除、2つが有効であることを明らかにする。さらに、所得税の減税は、これらの改革の実現を難しくすることも示す。」

https://drive.google.com/file/d/1jEQ0JGmzrMOS6agZ4bzZ3xsIEaMpmh2I/view?usp=sharing

日本学士院講演「日本の貧困率と所得再分配」

日本の貧困率と所得再分配に関する講演を、2025114日における日本学士院第二部例会で行いました。この講演の趣旨は次のとおりです。

日本の低所得者の生活向上のためには、次の2つが必要である。

  1. 医療保険と基礎年金の税方式化
  2. 給付付き税額控除

そして所得税の減税は、これらの改革の実現を難しくするというものです。

講演に用いたスライドは、こちらのリンクからご覧いただけます。

2025/03/23

週刊エコノミスト(2025.1.7)「先輩が語る石川経夫『自分を犠牲にしてでも尽くす人』」

週刊エコノミスト(2025年1月7日号)「早世した天才経済学者 よみがえる石川経夫 前編」に、私のコメントが掲載されました。

記事は以下よりご覧ください:
https://drive.google.com/file/d/1Vph8pq-gZsKoVx7dr8B3S6Bbo0bozjAO/view?usp=sharing

2025/03/21

AGIワーキングペーパー・シリーズ「Causes of the Sharp Decline in Migration to Major Metropolitan Areas in the 1970s」

アジア成長研究所(AGI)のワーキングペーパー・シリーズとして、「Causes of the Sharp Decline in Migration to Major Metropolitan Areas in the 1970s」を発行しました。(2024年11月(2024年12月に編集))

全文は下記からご覧ください
https://www.agi.or.jp/publications/workingpaper/2024/WP2024-18.html
【AGIリポジトリhttps://agi.repo.nii.ac.jp/records/2000145


Causes of the Sharp Decline in Migration to Major Metropolitan Areas in the 1970s

要約:
Japan's rapid growth in the 1960s was accompanied by a massive migration from rural to urban areas. However, immediately after 1970, migration declined sharply, and at the same time, the rate of economic growth plummeted.

To explain this decline in urban-bound migration, we estimated the urban-bound migration function.

The estimation reveals that in the 1970s, the largest factor contributing to the decline in this migration was the relative increase in per capita income in rural areas. The second most important factor was narrowing regional disparities in the job-to-application ratio. In addition, the relative increase in the stock of social capital in the local regions also contributed. However, the population change in the rural areas had negligible effects on urban-bound migration in the 1970s.

This paper also demonstrates that the relative increase in per capita income in rural areas is largely due to policy-based regional redistribution, implying that the large-scale redistribution of the fruits of rapid economic growth to rural areas halted urban-bound migration and reduced the growth rate. This suggests that for developing countries experiencing high growth, curbing the political pressure to redistribute to rural areas may be important to sustain the growth.

2025/03/10

AGIワーキングペーパー・シリーズ「解雇手当契約を可能にする社会インフラ整備」

アジア成長研究所(AGI)のワーキングペーパー・シリーズとして、「解雇手当契約を可能にする社会インフラ整備」を発行しました。(2024年3月)

全文は下記からご覧ください:

「解雇手当契約を可能にする社会インフラ整備

要約:

米国では人材の解雇と新規採用によって、技術革新に必要な、機敏な人材の配置換えが可能である。対して、日本では、解雇が困難であり、その分、特に、IT 産業などで、時代に合った採用が出来ず、長期的な生産性の伸びを抑制している。

本稿では、まず、従来からの慣行型の雇用契約を残しつつ、解雇条件を明文化した新規契約をも可能にする規制緩和を提案する。次に、そのために必要な解雇手当基金や雇用保険制度などの社会インフラの整備を提案する。特に、企業による解雇手当基金への積み立ての義務化、国によるデフォルトの解雇手当水準の設定、雇用保険料への履歴料率制の導入など、労働市場の健全な流動化を促進する仕組みについて論じる。解雇が起きにくいことを前提として構築されている現行の社会インフラのまま、解雇条件を明文化した契約を導入すると、企業による解雇の頻発や労働者による解雇手当獲得を目的とする退職などのモラルハザードを生むことになるからである。

本稿で提案する社会インフラ整備の下では、解雇条件を明文化した新規契約を結ぶ企業に対しては、解雇時にそれが社会に及ぼす負担に応じたペナルティを与える一方、解雇される労働者には解雇手当の給付を確実にする。解雇された労働者が受ける保護は格段に向上する。

一方、企業はそれらの代償を払った上で、自社に必要な能力を持たない労働者を解雇できるため、能力のある労働者のみを高い賃金を支払って雇用できるようになる。これは、新時代が必要とするイノベーションを、日本でも可能にする。

2025/02/28

週刊エコノミスト「103万円の壁 中高所得者により有利な国民民主党案では経済活性化せず」

週刊エコノミスト(2025年2月4日号)に私の論考が掲載されました。

誌面の記事は次のリンクからご覧ください:

この論考では、低所得者の手取り増大策をいくつか提案しています。

そのうちの一つとして、基礎控除を75万円上げるならば、税収損失が約4000億円程度に留めることができる方法を提案しました。p. 39の真ん中の2段にそのことを記しています。この案は、課税最低限を103万円から178万円に引き上げる一方で、限界税率が20%の人には現行通りの限界税率と控除額とを適用し、限界税率が15%178万円以上の年収額に対しては、その間の納税額が連続的になるように税額などを設定するというものです。(なお、このエコノミストの記事をより詳しく説明したダイヤモンドオンラインの記事は、改革前と改革後の収入に対する税額の変化を示す図もつけています。)

33日の自民・国民・維新の三党合意案と異なり、基礎控除額は所得に関係なく一定です。その代わり税率表の方を、低所得者に絞った減税になるように改定しているところが味噌です。
なおこの改革案で、税収損失が約4000億円程度としているのは、現役世代の人に対してです。高齢者については、背後で、基礎年金の引き上げによって年金控除の廃止されることを前提としています。そうすると低所得者の課税最低限は引き上げられますが、高所得者の税支払額は引き上げられます。



2025/02/27

AGIワーキングペーパー・シリーズ「内外無差別化の必要性」

アジア成長研究所(AGI)のワーキングペーパー・シリーズとして、「内外無差別化の必要性」を発行しました。(2023年1月)

全文は下記からご覧ください
https://www.agi.or.jp/publications/workingpaper/2023/WP2023-01.html
【AGIリポジトリhttps://agi.repo.nii.ac.jp/records/2000035


「内外無差別化の必要性

要約:
 現在、旧一般電気事業者(旧一電)の発電部門は、社内小売部門とのみ、変動数量 契約の一種を結んでいる。この契約には、契約で購入した電力の、取引所への再販禁 止などの条件が付けられている。この契約を「UR契約」とよぶ。
 本稿は、UR 契約が社内でのみ結ばれていることが、次の弊害を生んできたことを指 摘する。第 1 に、複数価格の併存が、社会的に非効率的な資源配分をもたらす。第 2 に、市場価格高騰時に価格高騰を増幅させる。第 3 に、発電部門による取引所への販 売量の変動が、先物市場の発達を阻害する。
 日本の UR 契約には、高い水準の取引上限値が設定されている。そのため、気温の 上昇のように旧一電小売部門の電力需要を増大させる要因が生じた際にも、小売部門 の需要量が UR 契約の上限量を超えない需要量に留まり、小売部門は新電力に比べて 安い契約価格で購入し続けることができる。これが上記の弊害の原因である。
 発電部門が UR 契約を結ぶためには、小売側に対して、契約に基づいて購入した電 力の取引所への再販売禁止などの契約条件を、遵守させる必要がある。ただし、発電 部門にとって、新電力に対して、これらの義務付けの遵守を監視するためには、社内 取引で行う場合と比べて大きな監視コストが追加的に掛かる。このため、発電部門は、 新電力とは UR契約を結んでこなかった。
 一方、契約における内外無差別、すなわち「すべての小売事業者が、旧一電の小売 部門と同一の契約条件の契約を、旧一電の発電部門と結べること」が義務付けられた 場合、旧一電の発電部門にも、新電力に対する監視コストに見合った禁止的に高い料 金を取らざるを得なくなる。この結果、日本で現在行われている UR 契約は、諸外国 と同様に存在しなくなり、UR契約が生む上記弊害を取り除去される。